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公益社団法人 日本動物福祉協会の町屋奈先生に2021年6月29日にインタビュー

 公益社団法人日本動物福祉協会の町屋奈先生に2021年6月29日にインタビューしてまいりました。たくさんの質問をしてしまい2時間のインタビューになりましたが、大変勉強になる内容でした。町屋先生、ありがとうございます。

​インタビュースタート!!

 

◇動物虐待事件について。警察の対応。

 

  町屋先生:もし、動物の死体を発見した場合、まずは110番してください。周りに毒餌等がないか、も含めて、しっかり捜査されると思うので、現場はそのままにして、死体は回収し専門機関で検案してもらうといいです。

 

-------それは全国に浸透していますか?

 

  町屋先生:警視庁は比較的しっかりと対応していると聞いています。一方、地方などでは、担当する警察官によっては対応が違うケースもあるようです。例えば、有名な神社で動物虐待の通報を受け現場にきた警察が、死体をみただけで「こんなのは虐待じゃない」、と、通報者を頭ごなしに怒鳴ったという話を聞きました。警察官は動物のことは専門外だと思いますので、わからない分野は自己判断をせずに、動物虐待などの専門家に相談してほしいと考えています。

 日本獣医生命科学大学では、警察や行政からの動物虐待の相談や受け入れをしていますが、相談件数は毎年、右肩上がりに増加しているようです。やはり改正された動物愛護法の厳罰化が効いていると思います。

 警察は対応し始めている一方、警察からの相談に行政が対応してくれない、というケースがあります。

 

 

◇行政について。

 

  町屋先生:動物愛護法で決められている役割のほとんどは、行政にあります。それだけ、動物愛護行政の役割は大きくなっているといえます。先の法改正で、一般の飼い主による虐待疑いでも、第25条で行政職員が立ち入りできるようになりました。いわゆる英国のRSPCA(英国動物虐待防止協会)のインスペクターのような存在が日本では行政職員だと思います。しかし、行政は常に、人手が足りない、予算も無い、という問題を抱えています。

 

-------アニマルポリスの必要性はどうでしょうか。

 

  町屋先生:アニマルに特化しなくていいのではないでしょうか。動物も人も虐待されていたら通報し、警察が犯人を逮捕し、動物愛護センターなどが動物を施設に一時保護というように連携すればいいと思います。しかしそのネットワークがまだできていません。毎年、年度初めにでも、知事や県警といったトップ同士が協力体制の覚書を交わすなどして連携を深めることが必要です。

 

 動物愛護センター職員は公務員ですので転勤があります。そのため、センターの職員の教育を継続して実施するなどして、職員による対応の差を無くしていくことが大切です。そして、行政は、しつけなど民間ができるようなことは民間に任せ、業者の視察や虐待対応など、行政しかできない仕事を限られた人的ソースの中で有効に実行していただきたいと考えています。現状はそういった役割の認識がしっかりとできていない自治体が多く見受けられます。

 また、立派な施設があるのにもかかわらず引取りをしたがらない傾向があります。たとえば、多頭飼育問題があって飼い主が手放す意思をみせていても、何かと理由をつけて預からないケースがあります。多頭飼育問題解決の第一歩は保管施設の確保です。飼い主が手放すといったときがチャンスですが、センターはそれを積極的にはしません。それは殺処分ゼロの弊害もあると思います。多頭飼育問題で飼われてきた動物は人に慣れなく、病気も酷い子も多く、安楽死しかない場合も多いです。そのため、それを民間団体に押しつけるのではなく、行政が責任をもって対応してほしいと思います。多頭飼育問題は社会問題ですので、行政には、他人事と捉えるのではなく、相談の内容にどうしたらこたえられるか、解決していけるかという主体性を持って対応していただきたいと思っています。

 

------殺処分ゼロ、保護団体任せになっているように思います。

 

  町屋先生:特に、知事が殺処分ゼロをマニフェストにしている自治体は民間団体任せだったり、最初から引き取らない傾向があるように思います。また、適切な安楽死処置ができず多頭飼育崩壊状態の自治体もあります。「殺処分ゼロ」という耳触りのいい言葉に惑わされないで、動物の福祉の本質を考えてほしいと思っています。

  また、私たちもこういった状況に文句だけを言うのでなく、解決案などを提案していくことも非常に大切だと考えています。動物愛護行政の人手不足の問題解決の一助として、獣医科大学と協働で適正飼養管理指導ができる獣医師を育成するプログラムを作成し実践していく予定です。

 

 

◇グレーな保護団体

 

  町屋先生:栃木県の引き取り業者を告発したときに受けた質問の中で、「引き取り業者と愛護団体は何が違うのか」が一番印象に残っています。残念ながら、かなりグレーな団体もあります。多頭飼育崩壊状態で劣悪な環境で飼養していたり、ペットオークション等で売れ残った子犬子猫たちを中心に引取り、譲渡する際に、希望者に十数万以上も請求する保護団体などもあり、これは販売業ではないかと疑問に感じたりします。

 

--------そのような保護団体を減らし、行政と行政委託のボランティアと協力体制を取るべきと思っていますが。

 

  町屋先生:そのためには、第2種動物取扱業者も登録制にして厳しく監視していく必要があると考えます。登録制になることで、事前調査や年に何回かまたは通報があれば行政が立ち入ることができるようになります。ここでも行政がしっかりと対応することが大前提です。

 法律がここまで厳しくできても運用できなければ意味がありません。もし、運用されなければ、今年6月に施行された基準も形骸化し、本来であれば淘汰されるべき悪質な業者が残り続けることになります。そのため、より規制は厳しくなり、しかし現状は変わらず、行政職員の負担もますます増えるという悪循環になります。

 行政施設でも不適切な飼養管理又は虐待状態のところもあると聞きますし、また引き出しをしているボランティアも同様の状態にある場合もあります。実際、今年5月には大阪府が運営する「動物愛護管理センター」で職員が保護中の犬に適切な治療を受けさせず放置し、動物愛護法違反の疑いで書類送検されています。愛護センターは、センターで保護している犬猫だけでなく、団体譲渡した犬猫にも責任を持つ必要があります。引きだされた犬猫がどうなったかを定期的に報告をもらうなど対応している自治体もありますが、統一されていません。

 もしかしたら、本当に監視が必要なのは行政なのかもしれないと考えてしまいます。

 

 

◇犬猫以外の動物の福祉について

 

  町屋先生:この世にいる動物は犬猫だけではありません。愛護法の改正の度に思うのですが、産業動物や展示動物等は置き去りになっています。

 犬猫の殺処分のことは皆さん声高に訴えていますが、害獣としてとらえられたアライグマやハクビシンがどういう方法で殺処分されているかまで考える人は少ないのではないでしょうか。害獣の処分は、市町村が実施しているので、実態が掴めていません。

 また、メディアの影響によるブームから、スナネコやカワウソなど様々な野生動物をペットにしている方が多く見受けられます。ブームによる乱獲や飼養管理の難しさから、動物の福祉が損なわれる事態に発展する恐れが非常に高いです。ただ「可愛い」という感情だけでなく、様々な観点から野生動物の存在について考える必要があります

 多くの国民は、犬猫が身近でかわいいけど、牛豚など産業動物は日常で目にすることもないし、どうせ殺すのだから・・・という考えの方又は関心のない方が多いかもしれません。しかし、産業動物由来食品は、日々の食卓にのぼり、私たちの身体を作ってくれています。ある意味一番身近な動物といえるのではないでしょうか。動物の福祉に無関心な人と、人のための動物の利用は一切認めないというアニマルライツ思想の人、極論と極論が対立しています。思想同士の対立になると、どうしても動物が置き去りになります。それも問題だと思います。

 

------考える力を養う教育をしたいです。

 

  町屋先生:本当にそうです、想像力をどう働かせるかが大切です。例えば、スーパーで卵をみたとき、その卵を産む鶏の飼養環境はどうなんだろう。とか。平飼いとそうじゃない卵はどう違うの?とか。そういった考察力があるだけで本当に違ってきます。

 日本の食育は、動物が死ぬところからはじまります。そうでなくて、その動物が生まれてから、死ぬまでどういう飼養環境にいたのかという、ゆりかごから墓場まで、本当はそこが重要なんだということを私は常に訴えています。

 毎年当協会では、小中学生対象の作文コンテストをしていますが、子どもたちの多くは学校及び家庭の大人たちの考え方やメディアの影響を受けていることを強く感じます。中には本当に深く考えている子もいるので、文章を読んでいて私自身も勉強になります。

 特に、メディアやSNSの力は大きくて、情報収集しやすい一方、間違った情報も多い環境でもありますので、ここでも考察する力が非常に大切になってきます。

 一方で、体験学習としてと殺させる現場を子どもたちに見せたり、体験させるプログラムがありますが、年齢を考えないとトラウマになる可能性がありますので専門家による判断が必要だと考えます。

 

 

◇動物福祉の教育

 

  町屋先生:昔は、多くのふれあい教室などでは実際に犬猫などを連れていっていましたが、動物にすごくストレスがかかっていました。また動物がいると、子どもたちの意識が動物に行ってしまい、伝えたいメッセージが耳に届かないこともあります。現在は、子どもは大人以上に想像力があると言われていていますので、ぬいぐるみや、人形、絵を用いて実施しているところも増えてきています。

 数年前に、「いのちの教育」で有名な奈良県宇陀市「うだ・アニマルパーク」の教育プログラムを見学しましたが、ここでは実際に教員免許をもつ教育者が指導しています。おもしろいことに、先生がはりぼての動物を抱っこしてみようか、というと、子どもたちはみんな、そおっと本当に生きている動物に接するように優しく抱いていました。人形なのですが、大人がこれは生きものなんだよ、というと、優しく扱います。すごく想像力を働かせてくれます。

 生きた動物、犬猫を使うことは、最近はほとんどありません。そういった意味で、学校飼育動物も無用だと思っています。

 

-----私の小学生時代でも飼育係だけがお世話していて、先生たちが何か飼育動物の話をしたり、お世話している様子を見る機会はなかったです。

 

  町屋先生子どもたちにまかせっきりは、教育でもなんでもありません。劣悪な環境で苦しんでいる動物を子どもに見せることは精神的な虐待にあたる、ともいわれています。そのため、教員が率先して適切な世話をしなければ、情操教育どころか子どもたちを虐待している、ということになりかねません。また、動物を飼うことがトラウマになる子どもたちが出てくる可能性もあります。「適切な世話ができないのであれば飼養しない」という非常にシンプルな答えをだせずにいるのが問題です。

 当協会には、保護者の方から、夏休み冬休みなど長期休みの間の飼育はどうなっているんだ、見ていられない、なんとかしてください、という相談が多くよせられています。獣医師会が介入しているとはいえ、限度があるので、学校つまり教員が飼い主として責任を持って対応すべきです。そして、いのちへの責任を大人が持てない以上は、学校などでの動物飼育をやめるべきだと考えます。最近では、少しずつ、うさぎなどの小動物や小鳥などは飼わなくなっている学校も増えてきています。

 教育者の意識の改革が必要です。そのためには文科省が定める学校指導要領から学校飼育動物の推奨ははずしてほしいと考えています。

 私の友人の子供たちは帰国子女になりますが、米国で学んできているので、イルカショーは虐待だからダメだ、と、普通に言います。それは、そのような考え方が社会通念としてあるからです。そういう環境で、教育を受けると自然とそのような考え方になるのかもしれません。

 

 

◇動物福祉と社会福祉

 

  町屋先生:少しずつ日本も動物福祉と社会福祉が連携をする必要があるという考え方になってきています。昨年、劣悪多頭飼育問題で人の福祉部局から相談を受けた事例では、飼い主が知的障碍をもっていて、一人暮らしで猫が大繁殖してしまい、セルフネグレクトも起きていました。糞尿の上に寝るだけでなく、人間の食事代を工面できず猫餌を食べたりしていたようです。猫だけでなく飼い主の健康及び福祉が著しく侵害されていたと言えます。

 世界的に「ワンヘルス・ワンウェルフェア」が提唱されております。

 昨年度、環境省が作成したガイドライン(「人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン~社会福祉と動物愛護管理の多機関連携に向けて~」)でも、多頭飼育問題の対応には動物と人の福祉部局の連携が記載されています。

      

ワンヘルス:人間と動物、生態系の健康を一体として捉える考え方

      

ワンウェルフェア:人間と動物と環境の状態が相関関係にあるという概念

 

 昨今、動物虐待と人への暴力とのかかわり「虐待のリンク」も非常に注視されています。実際、北海道で女の子が飢死した事件で、そこには20匹以上の猫がネグレクトされていました。動物が虐待されている家庭に、幼児またはお年寄りの方がいたら虐待を受けている可能性もあります。そのため、こういった場合、警察などの他、人の福祉部局と一緒に動くというのは英国やアメリカでは常識です。

 日本でも多頭問題のガイドラインが作成されましたので、今後、それを行政がしっかりと活用するかが重要です。動物愛護行政と人の福祉行政の連携することによって、ヘルパーさんなどによる早期発見や再発防止の監視などできるようになることを期待しています。そのため、普段から相互に情報を密に取り信頼関係を築いていくことも大切だと考えています。

 

 

◇動物愛護の意識

 

  町屋先生:現在、環境省に獣医師職としての採用枠はありません。そのため、動物の専門家である獣医師がほとんどいない状態で動物愛護の対応をしているのが現状です。そのため、環境省でも獣医師枠雇用をしてくださいと訴えています。その国の動物に対する意識の度合いは国の機関でわかると言われています。環境省の動物愛護に関わる部署は、今だ「室」なのです。(動物愛護管理室)「課」にもなっていません。国の重要視する度合い・優先順位が、残念ながらその程度と言わざるをえません。動物に対する意識をどうやってあげていくか、それはやはり我々国民の意識(民意)を向上させることです。それが、社会通念となり、法制定や改正に繋がっていきます。

世界的に「動物福祉」が受け入れられているのは、動物福祉は科学と言われているからです。この世界には、動物好きな人以外に、なんとも思っていない人、嫌いな人を含めると半数以上います。半分以上の人たちの意識を変えて行く、その方々を納得させるのは、科学的根拠であり、世の中の多くの人達の理解を得ながら変えるには科学は必要不可欠だといえます。
 

インタビューは、以上になります。

町屋先生!お忙しい中お時間を作って頂き、本当にありがとうございました。
 

このインタビューの文章の修整と加筆まで町屋先生にして頂きました。

重ねてお礼申し上げます。
 

NPOあにまる同盟スタッフ一同

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